あと1人・・・。野球の厳しさを垣間見せられた9回の守り。交代を告げられてしゃがみこむ姿はあったけれど、すぐに立ち上がりベンチへと歩みを進めた。本音を言えばグラブを叩きつけたり、マウンドの土を蹴り上げたり、そんな心境だったかも知れない。でも今この状況で文字通り「チーム」として戦っている事を誰よりも理解する男は、悔しさを噛み殺してチームの勝利を願った。何度と無く罵声を浴びせられ、何度と無く自分を見失いそうになった事だろう。自信を失った事だろう。でも、彼は己に負けなかった。この優勝争いの土壇場で、開幕戦で見せた「大きな背中」が戻ってきた。最後マウンドを降りる「26」に注がれた温かい拍手が何よりの証明だろう。2週間前に「論ずるに値しない」とまで言われた男に、指揮官は「ナイスピッチング」とのコメントを残した。何より誰より内海哲也を信じていたのは原辰徳なのだろうと思う。「論ずるに値しない」投球の後でも先発のマウンドを託したのだから。そしてその後の2試合。内海哲也は白星を2つ指揮官にプレゼントした。負けることが絶対に許されない中で、ドームのど真ん中で近寄りがたいような緊張感をまとって投げるその姿に、バックで支える野手陣は大きな勇気をもらった事だろう。そしてより意を強くしたはずだ。「勝たねばならない」・・・と。2死から阿部が由伸が古城が、そして脇谷が単打でつないで2点を先制する。昨日の「ヒーロー」坂本が4安打2打点の活躍でチームに勢いをつける。由伸の力強い一発がドームの温度を高くし、「4番」ラミレスがトドメを刺した。「一丸」。昨日の土壇場でのサヨナラ劇。そして「大黒柱」が静かな闘志をまとって投げた138球。誰も諦めちゃいない。皆が「勝利」の2文字を得る為に・・・「チーム」の為に己の持ち得る力の全てを白球にぶつけている。内海の帽子のつばには、「やるしかない」の文字が刻まれている。彼だけじゃない。今のジャイアンツ全員が同じ気持ちだろう。相手がどうであれ関係ない。今は自分達に出来る事をやるしかない。そう「勝つ」と言う事を。残り9試合。全て勝って、そして届かないのなら仕方ない。潔く負けを認めるしか無い。でも、まだ白旗をあげる必要は全く無い。一つの勝利を貪欲にもぎとっていこう。一つのプレーもおろそかにせず、この緊張感の中で試合が出来る喜びを白球にぶつけていこう。「奇跡」は降ってくるものではなく、己の努力でたぐり寄せるもの。勝って勝って勝ちまくれ!!
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